私達は過去に多様なスタイルのイベント列車を企画・実施して参りました。
列車の車両や運転輸送と言うハードウェアに対して、顧客満足度の向上を図り「如何に御乗車の皆様が楽しい、そしてワクワクして頂けるか」、そして「その空間創造にはソフトウェアも必要」と考えて、採算や集客を一切考えずに仲間内で資金を出し合い実験的に運行・・・それは実に実施した列車の半数にも及びます。
コンピューター、ソフト無ければただの箱、と誰かが狂歌にしましたが、ホテルや旅館、博物館や博覧会・展示会等ではまさにその通りで、セルフサービス・誰もスタッフの居ないホテルや展示会などありませんし、スタッフの数の問題以前に、サービスと言うソフトウェアは施設や展示に適合したものを組み合わせ馴染ませて、或は創造して御利用の御客様に快適な或は楽しい時と空間を提供するものです。
とは申しましても、全く失敗に終わったり、実現すら出来なかったものも多数ございます。その全部に共通しているのが「地域との連携の無かったもの」なのは、今一度顧みて私達自身が驚いております。
折角蒸気機関車を1億数千万円掛けて復元し、年間数千万円の運行費用、2年に毎の中間検査、4年毎の全般検査(鉄道車両の車検)に1億円と、総額数億円のプロジェクトだったにも関わらず、日本最大最速最美にして最も「本物の汽車」の再現にこだわった旧C623機(北海道鉄道文化協議会)計画は、実は地域との連携が他のSL計画と比較して弱く、一部町村には「警備のお願い」には行っても、「観光連携の提案」は無いに等しい状態でした。(資金は民間企業がスポンサーとなって拠出し、行政では小樽市だけが助成金を付けておりました。しかし観光協会や商工会議所レベルには意見聴取や運行計画の提示さえされていなかったのです。有志が非公式に情報を伝えた様子ですが、組織として正式なアプローチは皆無でした。)
勿論、その事業破綻の原因は他にも多々ありますが、プロジェクトスタッフにその点を考慮出来得る人間が不在、或は疎外されていた事は、大きな「破綻」の理由でもありました。
私達が提唱する「地域との連携」は、市町村は勿論、商工団体や観光協会、駅前の旅館の女将さん、土産店のおじさん、そこに現として暮らして、生活している人も含めて、その「機会の活用」を探るシステムの確立と、御意見の擦り合わせ、その中から「最善策」を見つけだして運行・企画に反映させる、と言うものです。
従前の蒸気機関車列車ではその多くがやはり鉄道会社が主体となり、区間や機材(車両)等運転を決定するだけでは無く、地元の観光の宣伝や観光ポイントとの連携(車内でのリーフ配布や車内イベントの提案等)も「頼めばやらせるが、頼みはしない」と言う頑な態度となるケースが少なく無かった様です。また広告代理店が企画したものも「採算主義」に陥り、御客様の満足度よりも如何に低コストで実施するか=如何にサービスを削るかに脚点が置かれ、運行2・3年で既に陳腐化して事業主体が入れ替わったと言うケースが殆どで、担当者が地元どころか蒸気機関車も鉄道運輸も、特産品の味すら知らないままに美辞麗句を並べた企画書を作り、数億円の行政からの拠出を頼みとした・・・バブル経済時代を象徴するエピソードまである程です。
蒸気機関車なんて、走ってしまえば後は各々が勝手にやれば良い、と言う様な姿勢では、地域の要望や元気の素を造り出す事なぞ不可能です。
これは蒸気機関車に限らず、また文化財活用・観光素材創造に関わらず全ての「企画」に共通した事ですが、そこに「御来訪の御客様の笑顔」や「そこに暮らす人の笑顔」が無ければ、ただの独善、自己満足でしかありません。
賛成も有り、又反対も有り、それが当然なのです。その多々の御意見を如何に実施に反映し、御来訪の御客様の笑顔を得るか、その答はそこに生きる人の優しい笑顔にこそあります。
私達が提唱する交通文化財の保存と活用、その対象は「人」です。
その日その時、その列車や施設を眺めて、乗ってだけで二度と御来訪されない方の方が圧倒的に多い筈です。しかし確実にその街に、その土地に足を運ばれるのですから、それは「チャンス」以外の何ものでもありません。その折角のチャンスを活かせる「場」を御提案し、それに対しての御意見や御要望を運行や展示・運営に反映される様「コネクター」の役割をする人間が不可欠だと、過去のイベントやSL支援で私達は強く、痛い程強く認識し、その為に特定非営利活動法人としたとも言えます。そこに責任は勿論必要です。単なる任意団体やファンの集まりでは、やはりがぶりよつになって地域と人と素材となる交通文化財、そして関係企業や行政との中継を行う事は困難です。
地域で御客様をお迎えするのも人間、運転したり管理したり清掃したり御案内したりするスタッフも人間、何よりそこにお出でになられるのは人間です。私達が向き合うのは法律でも資金でも(勿論それらも重要な要素ですが)無く、何より可笑しければ笑い、頭に来れば怒り、不満が有れば文句を言い、悲しければ泣き、感動すれば動く「人間」であり、データを打ち込んだり、メモリを増やしたり、インストールすれば言う事を聞くコンピューターでは無いのです。
何処迄も人間。それが地域との連携の成否を決定する最大にして最重要なキーワードです。
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