特定非営利活動法人交通文化連盟理事長緊急談話
2005年4月26日17時
先ず、この度の事故で亡くなられた皆様の御冥福を深く御祈念申し上げます。
遂に犠牲者が73人となり、国鉄分割民営化以降はもとより、国鉄時代から見ても鶴見駅構内列車三重衝突脱線事故(1963<昭和38>年11月9日・死亡161/負傷120名)以来の重大事故となってしまいました。
また、列車乗客や乗務員に死傷者が無かったものの、常磐線羽鳥駅では通過中の特急スーパーひたちにトレーラーが接触・脱線すると言う事故が発生しております。
今年は未だ半年にならないまでに、土佐くろしお鉄道宿毛駅での激突事故があり、それ以前に昨年以来の中越地震の影響で上越・飯山・米坂・只見線が未だ支障状態にあり、福岡地震では鉄道に影響がそれほど無かったものの、自然災害が多発する時期に入ったとも言わざるを得ない状況となっております。
「安全は輸送業務の最大の使命である」(安全の確保に関する規程=国鉄昭和39年4月総裁達第151号)とうたわれ、北側国土交通大臣の談話にある様に、基幹公共交通機関としての鉄道の最大にして最重要な目的と使命は「安全」である。
国鉄分割民営化以降、鉄道にも「合理性」が求められ、それは一定の成果を得たと評価は出来るものの、他方ホームでの列車監視要員の削減が「自殺多発」や「列車内犯罪の増加」を呼んだ事は否定出来ず、また無用に複雑な列車運転形態を大都市圏で強行している一方、地方路線や基幹幹線では長距離列車を削減し、「新幹線偏重」とも受け取れる列車運転体系にしつつある。
鉄道人としての良心とプライドを、こんな時だからこそJRを始め鉄道で生活する全ての方に再認識して頂きたい。
小手先の誤魔化しや格好では無く、鉄道は輸送現場こそ第一であり、安全こそ第一であり、これが一般的な企業なれば「会社は利益を上げて株主に還元するもの」と言えるものの、鉄道は「国家国民の基幹たらむ」との気概と社会的存在意義にあるものであるとの責任を果たして行くべきであり、「鉄道会社は乗客の安全の為にある」との原則を噛み締めて頂きたい。
乗客が運賃を支払って得るのは「施設・列車の利用料」では無い。
切符をお買い求め頂き、改札を入って列車に御乗車頂いた瞬間から、鉄道会社は御客様の生命と財産と時間に保証と責任を発生するものであり、故に切符を「有価証券」と呼ぶのである。
昨今、人命と人格を軽視する風潮が当然の様にはびこっているが、総じて一切世間の治=事業は利用者・顧客に対価としてのサービスを提供する事で結果、国家総体の公共の利益に波及すべくものである。これは綺麗事などでは無く、これが心肝であり骨格であり大原則理念な筈である。
鉄道事業の近代化は人減らしでも従業員の高学歴化でも列車の付加料金増収化でも無いのだ、そこに現場鉄道人の修練と鍛練による技能向上を機械が更に向上せしむるものによる「努力」が「近代化」なのである。
少なくとも、JRは民間企業では無い。国鉄百数十年の蓄積した「財産」の上に乗り、分割民営化に際してはその借金を国民に押し付けて成り立たせた「破産再建事業」なのだ。決して優良な横文字会社でもトレンド企業でも無い。
酷く地味ではあるが、その地味こそ我が国を根底・基幹から支え続け、今日の繁栄を確実に築き上げ、構築し続けているからこそ、重要であり不可欠なものなのである。
同時に、趣味やボランティアと言うも交通、殊に鉄道に深く関与する弊連盟にも全く同様の責任と自覚が求められる事は言う迄も無く、単に好きだの嗜好だのでは済まされないのである。
73人もの犠牲者が出たのは23才の運転士だけの責任とは言えないのである。刑事的にはそれで決着しても、道義的には鉄道に関わる全ての者が73人も殺したのである。
ここで今一度、交通文化連盟の人間と言わん人材は「老いたる同志の築きたる誉の軌道をいざ護り抜け」との弊連盟の社是の深意を文上では無く文底から推察し、市民組織であるからこそ可能な「鉄道輸送の安全」への応援・支援・推進を強く押進めて参りたい。
その根幹には、「絶対人間主義」「絶対人生主義」の思想こそ不可欠であると結論させて頂く。
73人の犠牲者には73の家族と将来我が国を根幹から変革せしむる位の可能性と、73の喜びと夢と笑顔があったのである。それは「他人」では無い、個々の家族・親・子・兄弟・同志でもあるのだ。
我が親愛なる大切な人の笑顔を、何より大事と思うならば、73の深い悲しみを深く心に刻むべきであり、またとかく軽視される「精神的主義」をもって交通文化連盟は頑固に人間だけが持つ無限の可能性を、生命こそが持つ無限の力用を、その全ての事業・活動の根幹と為し、「社会文化ボランティア」が国家公共の利益増進に実は直結している分野である事の深く重い責任を再確認して置きたい。
無論、今後今次の様な惨劇が防止出来るのであれば、国鉄に生きた者としてこの生命を捧げても悔いなどは無いが、鉄道人に「絶対人間主義」が定着しない限り、惨劇はくり返される恐れすらある。
また、世代の隔絶がボランティアの活性化を阻んでいる事は実感するところであるが、知識より技量、学力より人間力こそ現在、我が国に求められる「パワー」なのである。
他の特定非営利活動法人に比較して若い世代が多い弊連盟だからこそ、理事を始め執行役員や幹部が先ずは「人間力」を修養すべきと心得るものである。
精神の欠如は脆弱でしかない。
これを全交通文化連盟社員とボランティアスタッフに訴えると共に、全鉄道人に広く訴えるものである。
特定非営利活動法人交通文化連盟 理事長 吉野 俊太郎
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