第304号(平成22年03月11日号)
悪質鉄道マニア暴走にJRが被害届、県警が事件として捜査に着手

 平成22(2010)年02月14日(日曜日)10時40分頃、西日本旅客鉄道管内関西本線三郷〜河内堅上間(直流電化/複線)を惰行通過中の加茂09時55分発天王寺行下り快速第3361K列車(221系電車6両/運転士・車掌及び旅客約500名)の運転士が第三明神トンネルを出たところで、運転士が進行先第4大和川鉄橋(延長233メートル)南詰先の踏切(名古屋起点153キロ800付近)で上下線間軌道内に3人の男性が立ち入ってカメラを構えたり、三脚を立てているのを目撃し、警笛吹鳴と共に非常制動措置を行い緊急停止した。

 付近には鉄道マニア60名程度が滞留しており、この3人の他にも軌道内に立ち入っていた者が居た為、3361K運転士が退去を要請したが聞き入れられず、この運転士は輸送指令に通告、同社では河内堅上駅に連絡して職員を現場に派遣する一方、駅では大阪府警察本部に通報した。

 通報を受けて管轄の同府警柏原警察署員が現場に到着した際にはこの「往来妨害被疑者」達は退去した後で、残留していた他の鉄道ファンから状況を聞く等する一方で臨場哨戒を行った。

 この影響で3361K列車は現場で30分程停車して運転を再開した。

 この直後の11時25分頃、同線河内堅上〜高井田間第五大和川鉄橋(延長114メートル)東詰踏切(名古屋起点154キロ800付近)でも軌道内に立ち入っていた男性数人を通りかかったJR難波発奈良行上り普通列車(221系電車6両/運転士・車掌及び旅客約200名)運転士が視認、警笛吹鳴と共に非常制動措置を行い緊急停止した。

 この際には軌道内に立ち入っていた鉄道マニアは程なく退去した為、当該列車は現場10分遅延で運転を再開したが、先の3361Kの遅延と併せて上下列車19本が運転休止し、26本が最大40分遅延して約2万人が迷惑を受けた。

 現場は大和川が蛇行し山並が連なる風光明媚な場所で、三郷から河内堅上間は10パーミルの緩やかな勾配を降りつつ半径400メートルの急カーブを描く場所で、当日は新大阪発で奈良を経由して新大阪へ戻る団体専用臨時列車(上り臨時急行第9214列車/同社主催旅行企画に伴うもの・輸送番号大420。計画時刻=新大阪10時22分発14時46分着。)が設定され、11時30分頃現場を通過した。

 この機材は「あすか」(宮原総合車両所所属14系和式客車7両編成)で、牽引の機関車はディーゼル機関車のDD511109機(宮原総合運転所所属)、更にヘッドマークまで掲げての設定で、当該団体列車は14時46分新大阪駅に帰着している。

 既に10時頃から鉄道マニアの参集は通過した他の列車乗務員により現認されていたが、「目的」はこの「客車列車・あすか」にあったと見られ、運転士の退去要請に応じなかった「被疑者」は3361K列車通過直前に軌道内に立ち入ったと見られている。

 また02月20日(土曜日)16時59分頃、やはり西日本旅客鉄道管内東海道本線草津〜南草津間(直流電化/複線)の草津駅に近い上り軌道脇に1.8メートルのフェンスを乗り越えて三脚を立てた男性1名を、網干14時04分発米原行上り快速第790T列車(電車8両/運転士・車掌・添乗警戒職員及び旅客)の添乗警戒職員が視認し、即座に運転士に通告、警笛吹鳴と共に非常制動措置を行い緊急停止した。

 790T列車は現場から100メートル程通過して停止し、この警戒職員が付近を検索したが逃走した後だった。

 この影響で790T列車は現場で10分間停止し、この間東海道本線も抑止され上下6本が最大11分遅延、約5千人が迷惑を蒙った。

 当日、現場では17時過ぎに草津〜柘植間往復で運転された「草津線全線開通120周年記念号」(同社主催旅行企画に伴う団体専用臨時列車・輸送番号大3005。計画時刻=草津11時33分発第9712列車、柘植12時23分着折返15時45分発第9717列車、草津16時47分着17時02分発)で使用された機材の「あすか」と、それを牽引するディーゼル機関車DD511183機(宮原総合車両所所属)他が宮原基地まで「返却」される、その回送列車(下り回送第9717列車)が通過する予定だった。

 14日の「事件」を受けて同社では沿線や関係区間の列車に警戒職員を配置しており、この侵入者もその警戒職員が発見したもの。

 14日の事件を受けて同社では大阪府警察本部に鉄道営業法違反事件として被害届を提出、府警も威力業務妨害・列車往来妨害の容疑も視野に鋭意捜査に着手した。

 鉄道マニアの暴走は今に始まったものでは無い。

 昨年11月には東日本旅客鉄道管内東海道本線茅ヶ崎駅付近で、立入禁止の敷地内に無断で侵入し、三脚を立てて列車を撮影していた当時47歳の男性が倒れた三脚を起こそうとして軌道内に立ち入り、列車と接触して死亡し多数の列車が運休した事件も起こっているが、そんなマニアの「迷惑な自損事故」自体は、総体的には近年ではむしろ少なくなっていた。

 昭和53年秋のダイヤ改正で特急列車に「イラストヘッドマーク」が導入されると、昭和51年春にピークを迎えて終息したかに見えた「蒸気機関車ブーム」に乗っていたり、また現地(北海道)に行けずにテレビを眺めるに留まっていた高校生以下の「鉄道少年」達が寝台特急やそれら「エル特急」にカメラを向け出し、近畿地方では2件の列車接触死亡事故を起こし、上野・東京駅では日曜日の朝になると丸一日カメラを下げて被写体を追い掛ける「鉄道小僧むが頻発した。

 昭和54年の国鉄広島鉄道管理局(山口線)の蒸気機関車復活や東京北鉄道管理局(上野〜烏山間団体臨時)「999」号運転で絶頂となる「ブルートレインブーム」の最中でも、部品の窃盗や小中学生のファンを狙った「ユスリ・タカリ」や危険撮影行為は跡を絶たなかったものである。

 このブームは昭和57年11月14日の「東北新幹線ダイヤ改正」に伴う「名門列車廃止」による上野駅での騒乱で一旦終息したが、その後「犯罪性マニア」の集団化が顕著となり昭和60年までに「撮影目的の列車脱線未遂事件」や「硬貨偽造・切符偽造事件」まで引き起こした。

 しばらくは「マニア騒乱」も沈静化していたものの、昭和61年末から始まる「在来型一般客車列車全廃」や「国鉄分割民営化」で再びブーム熱が再燃、国鉄最後の日では報道こそされなかったものの、全国各地で「国鉄さよなら号」撮影に伴う傷害・暴行事案が頻発し、犠牲者まで出したと伝わる。

 その直後からJRのイメージアップ戦略による各地でのイベント列車や、秩父鉄道(埼玉県北観光財団)・北海道鉄道文化協議会(北海道旅客鉄道・函館本線)・九州旅客鉄道と、その年末に「ワゴンリ」を牽引した「オリエントエクスプレス」での華々しい復活を遂げた東日本旅客鉄道などでの蒸気機関車復活による「平成SLブーム」に変転、この「D51オリエント」の頃から中学・高校生の「暴力的マニア集団」とその被害が顕在化している。

 サブカルチャーとしての「鉄道趣味」がメディアに多く踊る様になったここ十年程はむしろ「沈静化」傾向にあると言っても過言では無いのだ。

  昭和56年秋に当初からそれら「マニア」の事故・事件防圧を目的とした「自主警戒組織」を日本で最初に抱えて立ち上げられた北海道鉄道研究会鉄道輸送警備隊で初代警備総括となっていた特定非営利活動法人交通文化連盟理事長・吉野氏は、

 「ネット時代が加速している中で、国鉄末期には未だ見られた異世代ファンによる防災・防犯の自浄作用や指導的接触が皆無となりつつあり、同意同趣同世代に凝り固まったマニア集団がネットをベースに多発し、そのベースで危険行為や反社会的行為がエスカレートしているのが現状で、一方では鉄道マニアを鉄ちゃんと呼び、撮り鉄だの乗り鉄だのと適当な造語を躍らせて鉄道ファンのみならず、それらのエキセントリックなマニアにあたかも市民権を与えてしまっている印象を引き出しているメディアの姿勢にも多いに課題がある。」

 と懸念する。

 鉄道友の会を含めて国内の鉄道同好組織もそんな「組織崩壊」は始まっているどころか急速に進行しており、鉄道誌などのマナーの呼びかけも

 「ネットと言う極めて狭隘な世界がすべてと錯覚してしまい易い若いマニア達に、大人の理屈は届かない、と考えるべき。」

 とも。

 現在も交通文化連盟で鉄道輸送警備隊執行幕僚長を務める同氏は、

 「ボランティアとして現場に隊員を派遣するには危険が大きいと躊躇する時代」

 と言い、同時に

 「それら犯罪加害者のマニアに市民権を与えるが如くの報道、ここがポイントで、それらメディアと共に現場に居る良識あるファンが、やはり勇気を出してならぬものはならぬ、と言う風潮を定着させて行く以外、実効性ある防災措置は望めない。学級崩壊などと言う言葉を聴いて久しいが、社会性や常識をキチンと指導して叩き込める大人が少なくなった。今回の西旅鉄事件は今後の死亡事故を防止させるためにも厳正厳罰に処断して頂く以外無いとしか言いようが無い。」

 と語った。

 他方、事件や事故に直結した危険度はここ数年で逆に多くなっている。

 撮影地や撮影テクニックを熟練者から教わる「機会」が少なくなった結果と共に、一部のメディアなどでの「鉄道写真」や「ビデオ」が「レールに近寄った」作品を紹介する機会が多くなっている事もこの原因の一つと言える。

 例えば駅のホームでの撮影やレール際の撮影などは「初心者っぽい」と笑われたものだが、近年ではそんな状態のものでも「ハウツー」の題材として取り上げられているし、更に専門誌なども本来は立入の出来ない私有地で許可を得なければならない立地で撮影した作品を、何の配慮も無く掲載してしまうのである。

 それらの無配慮がそんな「暴走」の潤滑剤となっている事実も忘れてはならない筈、なのだが・・・

 近年では東日本旅客鉄道管内東北本線大宮駅にたむろする若いマニアの集団による暴言行為が顕著だが、現状では極めて弱腰な安全要請に留まっている。

 警察官ですら暴言の群れに閉口する状態で、むしろそんな「現状」がそれら「マニアの暴走」を黙認しているとも言えるのだ。

 3月11日深夜は上野駅で廃止となる寝台特急「北陸」と、ボンネットスタイルの電車による急行「能登」が最後の出発を迎える。

 その時に被害者どころか「犠牲者」を出さない為にも毅然とした姿勢で「防圧」を行うべきである。(トレインタイムス編集委員会)。


連続掲載・インターネットによる新幹線指定券購入に御注意を

 インターネットによる新幹線指定券予約の「思わぬ落とし穴」について報道されていますが、東海旅客鉄道による「エクスプレス」予約はその発券機が東海旅客鉄道東海道新幹線の駅の「改札」外に設置してあるので、この購入の為には一度改札を出なければならないと言う。この為に乗車券は「東京都区内」とあるのに、「東京」まで「別途乗車券購入」としなければならない。東日本旅客鉄道と東海旅客鉄道、分割民営化失敗の縮図がここにも如実だが、旅客に不便や多重購入をさせて平然としているのも問題だ。

 東海旅客鉄道では「エクスプレス」予約では新幹線指定券のみとして、乗車券は乗車時に購入をと勧めている。くれぐれも御用心を。


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